Loading...

本文へ移動
お魚カテゴリー画像

ふじのくにパスポート

記事

働く若者紹介

農業を、仕事選びの選択肢の一つに ー 岩品孝則さん

○岩品孝則さん

静岡県静岡市出身。岩品農園の長男として生まれる。東京の大学を卒業後、家具メーカーに就職。5年間の店舗経験を経て退職。農業の専門学校で2年間、農業経営について学んだのち、2017年から家業を継ぐためにUターン。

 

 

農作物で「商売」をしたい、と30歳でキャリアチェンジ

 

家業の「岩品農園」を継ぎ、いちご「紅ほっぺ」のほか、枝豆など野菜づくりに奔走している9代目の岩品さん。2017年にUターンし、ようやく2年目を終える今、「自分で作ったものを自分で売る」商売の要素が詰まった、農業の面白さを実感している。

 

しかし、30歳を迎えるまで「農業を継ぐ気はまったくなかった」と話す。「いつか戻ることになっても、自分の農地だけ持って暮らしていければいい」と考え、東京の大学に進学。商学部でマーケティングを学び、卒業後は家具メーカーに就職した。5年間の店舗勤務では、店舗の売上の半分を見る売場責任者まで任されるようになった。

そこで“いち店舗経営者”としてヒト、モノ、カネを動かした経験が、キャリア転換の大きなきっかけになったという。

「どんな商品をどう売ったら、売上が上がるのか。試行錯誤しながら売り場作りや接客を考えるのがとても面白く、自分でも商売をしてみたいと思うようになりました。そして、せっかくやるのなら、家業の農業で挑戦してみたらいいんじゃないかと考えたのです。20代最後の節目の年に、もう一度大きなチャレンジをしよう。そんな思いで、農業をいちから学ぶべく専門学校への入学を決めました」

 

2年間過ごした農業の専門学校では、同じ志を持った同世代の仲間に恵まれ、農業を「農家経営」と捉える視点に大きな刺激を受けたという。在学中には4カ月間、京都のいちご農家でインターンも経験。法人化して雇用を生み出し、海外への販売も進めていたインターン先のあり方に、「自分も、経営者として農業をやっていく」という思いを強くしていった。

「農業人口が衰退していく中、家族で細々と農業をやっていくだけでは食を支えられません。そんな思いを共有できる経営者たちに出会えて、全国の農家さんの取り組みも知れました。就職、専門学校への進学と回り道はしましたが、今の自分につながる必要な時間でした」

 

 

自分の手で作ったものを自分の手で売る。農業でしか味わえない達成感がある

Uターンをしてから、生活スタイルは一変。おいしい朝採りにこだわり、毎朝6時には収穫を始める。午後にはパック詰めなど、収穫以外の作業に追われる。いちご以外にも枝豆、メロン、白菜などさまざまな品目を扱っているため、寒い日も暑い日も、年中収穫は続くという。

「生きた農作物を扱っているので、休日という概念もありません。ただ、子どもの頃からそれが日常だったので、大変さはあまり感じません。むしろ、サービス業だった前職の、昼から夜にかけて働く生活の方が新鮮だったかも。暗いうちから身体を動かし、日の出とともに日光を浴びて、富士山を眺めつつ朝ご飯を食べる。この生活は、健康的で気持ちいいです」

 

2018年は、度重なる自然災害に見舞われ、環境に大きく左右される農業の過酷さを実感したという。ただ、同じ災害に遭いながらも、被害を最小限に抑えて収穫を終えているベテラン農家さんも多く、“経験がものを言う”農業の奥深さを改めて感じた1年でもあった。

「台風では、いちごのビニールハウスが飛ばされたり、ハウス自体がつぶれたり。夏の酷暑によりハウス環境を整えるのにも苦労しました。さらには、いちごの苗づくりがうまくいかず、病気で苗が足りなくなってしまうなど、いろんな失敗を経験…。農業は、1年サイクルなので、失敗の原因を検証し、うまくいくように試すのはまた来年になります。根気のいる仕事ですが、成功も失敗も全部自分の責任。やったことがきちんと返ってくるので、いちごが無事育ったときの喜びも大きいんです。自分が作ったものを自分の手で売る、という面白さは、農業だからこそ味わえると思います」

 

 

地元を離れて気づいた、環境や人の良さ。これを守りたいと思えるようになった

 

岩品さんが育てる「紅ほっぺ」は酸味と甘みのバランスがとれた人気の品種。「章姫(あきひめ)」と並ぶ、静岡県の代表品種として知られている。岩品農園ではさらに、海をアピールした農産物を作りたいと、海産物が含まれた有機肥料を使用。温暖な気候に加え、海の豊かなミネラル分を取り込んだいちごづくりを進めている。

「専門学校時代にいろんな地域の農家さんを見て学んだことで、『ここにしかない魅力は何か』を考えるようになりました。そして、地元を離れるまでは何とも思っていなかった“海”が、強みだと気づいたんです。今はまだ作ることに必死ですが、今後は、販促面でももっとアピールしていきたいと思っています」

 

約12年ぶりに地元に戻り、人のあたたかさも実感している。2018年春に、ともに農業を営む父親がケガで休んでいた時期があった。その際、一人では大変だろうと近所の方や地元の友達が、数日にわたって手伝いに来てくれたという。

「代々農地を継いでやってきたからこその、地元のつながりのありがたさ。この静岡の農地を守っていきたいと改めて感じましたね」

現在、農業を辞める方の農地を借りて少しずつ大きくしており、継続するために法人化は欠かせないと話す。

「僕が実現したいのは、農業を、一般の職業と変わらないイメージにすることです。ほかに仕事がたくさんある中で農業を選択肢の一つにしていきたい。農業に就きたいと思う若い人たちを増やしていきたい。そのためにも、魅力的な経営をしていき、雇用を生んでいきたいと考えています」

 

一度、県外に出て働き、自分の意思で就農の道を選んだからこそ意欲的でいられると話す岩品さん。

「両親から、家業を継げなどと一度も言われたことはありません。農家の息子だから、ではなく、農業という仕事が純粋に魅力的だなと思えてここにいます。回り道をしても、最終的にやりたいことに辿り着いたらそれでいい。その上でもし農業をやりたいと思う若い方がいたら、ぜひ一緒に、静岡を盛り上げていきたいですね」